トロンボーン伊藤の
ホーンセクションよもやま話集

その6:ホーン譜作成の予備知識(1)〜調性

ここまで、筆者が楽譜作成を担当するときのノウハウについて述べてきた。 筆者自身が管楽器奏者であるため、 筆者は管楽器の特性についての前提知識をもって楽譜を書いている。 ところが、不幸にして(笑) 管楽器奏者でない人がホーンセクションの楽譜を書くハメになると、 その前提知識を持たずに楽譜を書いて苦労するばかりでなく、 その楽譜を演奏する管楽器奏者も不幸になる(爆)ことがある。 そこで、ここから数ページにまたがって、 管楽器の前提知識をいくつかまとめることにする。 まずは、調性の話から。

このページに関する感想、意見、情報提供、宣伝などは、 こちらの掲示板 でも受けつけております。お気軽に書きこんでください!


実音楽譜と移調楽譜

音階には、通称「固定ど」「移動ど」という2通りの使い方がある。 カンタンに説明すると、以下の通りである。

以下、「固定ど」「移動ど」という言葉を使って、 楽譜の書き方を記述していたのだが、以下のような意見があったので、 試しに「実音楽譜」「移調楽譜」という言葉を使った文章に書き改めた。 しかし、「実音楽譜」「移調楽譜」という言葉も、 いま筆者が勝手に思いついた言葉であり、 この内容で使うにふさわしい言葉なのかどうか自信はない(爆)。

読者の意見:
この内容で「固定ど」「移動ど」という表現を使うことに疑問があります。 あれは唱方の呼び名であって、移調された譜面を指す言葉ではないのでは。 でも、私も全然詳しくないので、 この表現の根拠となる文献などありましたら是非教えて下さい。

筆者より:
実はワタシも、「固定ど」「移動ど」より適切な表現を探していたのですが、 適当な言葉が思いつかなくて、そのまま放置してあります。 というわけで、根拠となる文献もありません。ごめんなさい。

さて、 ホーンセクションに所属する管楽器奏者の間では、 「実音楽譜」「移調楽譜」の2通りの楽譜が混同している ため、しばしば面倒なことになることがある。

まず、 吹奏楽やビッグバンドの出版譜面は「移調楽譜」で書かれている。 吹奏楽やビッグバンドの出版譜面では、 一般的にトランペットの楽譜は「ど」と書かれた音に対して、 実際の音程が「し♭(Bb)」であるように移調して書かれてある。 楽譜にはそれを表す「in Bb」という記号がある。 同様に、アルトサックスの楽譜は「ど」と書かれた音に対して、 実際の音程が「み♭(Eb)」であるように移調して書かれてある。 楽譜にはそれを表す「in Eb」という記号がある。 ただし、「b(小文字のビー)」は「フラット」だと思って欲しい。

一方で、 (ビッグバンド系をのぞく) ジャズやポップスなどの出身の管楽器奏者の中には、 「実音楽譜」の楽譜を好む人もいる。 実は筆者は、このことを社会人になるまで知らなかったので、 ジャズ系プレイヤーとのセッションに備えて、「移調楽譜」つまり 「in Bb」や「in Eb」の楽譜を書いてしまいそうになったことがある。
なぜジャズ系やポップス系のプレイヤーは「実音楽譜」を好むのか。 理由はいろいろ聞いたことがあるが、筆者がもっとも説得力を感じたのは、 ギターの楽譜だろうがピアノの楽譜だろうが、 そのへんに転がっている楽譜を使ってバンドの演奏に加わることを強いられるから、 ということである。

筆者の周囲の管楽器奏者には、吹奏楽や管弦楽などの出身者と、 ジャズ系やポップス系の出身者が混在している。 そこで、 はじめて一緒に演奏する管楽器奏者がいる場合には、 楽譜作成の前に「実音楽譜」と「移調楽譜」 とどっちで書いて欲しいか確認する ことを、できるだけ忘れないようにしている。

読者(プロのアレンジャー)の意見:
私がポップスの現場とかでスタジオプレーヤーの人などに譜面を渡す時は、 必ずトランスポーズ(移調)された譜面を渡しますし、それが一般的です。 ですから、「ポップス系の人は実音…」 というくだりはちょっと疑問が残ります。

ご指摘の通り、ジャズのセッションなどでは、 コンサートキーで書かれた譜面でみんなやっちゃいますよね。 でもいろんな人に聞いてみると、 やっぱり移調された譜面のほうがやりやすいという人が多いですね。

ということで、私の場合は時間の許す限り、ジャンルに関わらず、 なるべく移調した譜面を管楽器の人には渡すようにしていますし、 そう決めておけば無駄に気を使う必要も無いのでかえって気楽です。
まだそういう人に会ったことは無いですが、 inCじゃないとやだ、 という人には移調した譜面をあきらめて読んでもらうことにしてます:-)

読者(以前プロだったサックス奏者)の意見:
譜面に関しては、ジャズでもビッグバンド系は、 in Bb, in Eb でないと読めません。 コンボの方は結構 in C で大丈夫なようです。 と言うより、Any Key OKです。 移動ドで譜面を読んでるのでしょう。

筆者より:
そういうものなのですか .... う〜む、 ワタシが出会った、いわゆる大学のジャズ研究会などの出身の方々の中には、 あくまでも in C で、という人が多かったので、 てっきり世間はそういうものだと思い込んでおりました。 興味深い指摘をありがとうございました。

読者(トロンボーン奏者)の意見:
僕は個人的にはブラスバンド出身の、ジャズ研育ちなので、 譜面はト音記号でも、ヘ音記号でも読めるようになりました。 他人に渡すときはト音記号(C)で書いたものが多いですが。

筆者より:
ワタシもほとんど同様です。 ブラバンやビッグバンドではトロンボーンはへ音で書くのが基本ですが、 自分で楽譜を書くときは、大抵トランペットと共通楽譜(手抜きか?)なので、 ト音記号で書きますね。 それどころか、トロンボーンの楽譜をヘ音記号で書くと、 ホーンセクションで多用される音域に限って言えば、 半分以上の音符が五線から上にはみ出るので、かえって不便です。

読者(プロのアレンジャー)の意見:
トロンボーンのパート譜はヘ音で書いてしまいます。 架線がどうの…という人もおられるようですが、 あれはトロンボーンの宿命です:-)
それどころか、へ音で書くのに慣れてしまったので、 今となってはト音記号で書くと響きのイメージが全くつかめません。
そうそう、最近弦楽器の譜面を書く機会があったのですが、 ハ音記号(中音部記号)が絶対必要だということがよく分かりました:-)
ビオラの譜面は、 あれが無いとト音記号とへ音記号の間を行ったり来たりしまくって、 それはもうトロンボーンの「架線が…」 とかいう次元を遥かにこえた煩わしさになってしまいます。 実際に生の楽器のアレンジをやるのはほんと楽しいですね。

筆者より:
げ〜、上記の「筆者より」の欄に反響がくるとは ....(笑)
しかも「宿命」とまで言われてしまうしぃ(笑)
ちなみにトロンボーンも、管弦楽曲のスコアではハ音記号が頻出します。 トロンボーンのホーンセクションで使う音域も、 まさにハ音記号を使えばピッタリなのですが、 ハ音記号の認知度が低いので知人には強く主張してません。(笑)

読者(トロンボーン奏者)の意見:
僕はヘ音の楽譜で、Bbをドと考えて吹いてます。 よって、ト音記号ではBbで書いてくれないとすぐ吹けません。 Ebならヘ音と高さがおんなじなんで、上からb#を書けば吹けます(当然か?)。 周りは、Cがド派、Bbがド派ばらばらで、 例えば「ドの音が高い」って言われればその人に合わせて、 「Cやな」「Bbやな」って読み替えてます。
僕が人に言う時は、実音ドイツ語読みで言ってます。 年食ってる先生から習った人はCを「ツェー」とといわずに「チェー」 と言う人が多いです

読者(トロンボーン奏者)の意見:
移動ドの話ですが、HPで中川善弘さん(中川英二郎さんの父) に質問してみたらトランペットのド(実音Bb) をCと言うらしいです。もう、わけわかりません。

筆者より:
周囲に「C派」と「Bb派」が共存すると、会話がややこしくなりますよね。 特に管楽器以外の人はどう考えても「C派」ですしねー。 実音で会話をするのは正解だと思います。 でも「えー」って言われて「それって英語のA(ら)?」 「それともドイツ語のE(み)?」なんて混乱があったりしてね(笑)。

読者の意見:
いまだにホーンの楽譜がどうしてBbとかEbになるのか? しかも、それをホーンの人が理解できるか、わからないっすね。

筆者より:
ホーンの楽譜がBbやEbになる理由は、 ワタシも手元に文献がないので正確なことは書けません(謝)が、 あえて超アバウトに書きます。
同じサックスという楽器に Bb や Eb などの複数の調性があるように、 多くの管楽器は2種類以上の調性のものが作られています。 そこには、数百年もの歴史的背景があります。 遠くルネサンスやバロックの時代の頃から、それぞれの管楽器の製作者が、 各々の楽器の良好な音色を追求するために、 あるいは各々の楽曲の調性に合わせるために、 ちょっとずつサイズを変えただけの同じ構造の楽器をたくさん作った結果、 中途半端(笑)なサイズの楽器が生き残り、 その中途半端さに合わせるように楽譜を移調して書くことになった、 という背景があるわけです。
で、管楽器奏者がなぜそれを理解しているかというと、 吹奏楽や管弦楽、ビッグバンドに携わる大半の管楽器奏者が、 中学生や高校生の頃から管楽器をやってるから、というのが実状でしょう。 若い頃は何でも理解できるんです(笑)。


次のページへ
前のページへ
目次へ